整理室日記 | 執筆記事|同志社大学歴史資料館

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お金の話

里見 徳太郎 同志社大学歴史資料館アルバイト職員

最終更新日 2002年10月9日

 今回の調査で、大学会館地点の調査区から37種160枚の銭貨が出土しました(平成14年9月まで)。

 出土銭には錆や汚れが付着しているので、特殊な溶剤の入ったビーカーに入れ、超音波洗浄器にかけて汚れを落とします。それでも落ちない汚れは、歯ブラシと竹串で丁寧に取り除いてゆきます。根気のいる作業ですが、判読できなかった銭文がよめる状態になったときは苦労が報われます。

 銭文の解読には、これまでの出土銭を網羅している『日本出土銭総覧』(兵庫埋蔵銭調査会、1996年)が欠かせません。掲載されている拓本と実物をよく見比べて種類を確定しますが、草書や篆書などの見慣れない書体の銭文もあり、なかなか難しいものです。しかし慣れるにつれて判読のスピードも上がります。

 ここまで書いたところで、新たに銭が出土しました。さっそくクリーニングして、「淳熈元寶」であることがわかりました。この淳熈元寶は、これまで出土が少なかった南宋時代(1127~1279)の銭です。今回出土したものは、これまでみつかった銭より一回り大きい「折二銭」という種類で、『日本出土銭総覧』によれば、淳熈元寶の折二銭は日本での出土例が非常に少なく、たまに検出されても摩輪されているそうです。しかし、今回みつかったものは銭文がしっかり判読でき、裏側に「十」という数字も読み取れます。正規銭であるとすれば、貴重な出土例になるはずです。

 ほかにもおもしろい銭が出土しています。煙管の雁首を潰して平らにして銭らしく見せた「雁首銭」です。今回出土したものは不恰好な楕円形につぶれてしまっています。失敗作なのかもしれません。

 銭貨は小さな遺物ですが、人間の営みをリアルに投影しているように思われ、興味は尽きません。重要な資料を扱うことへの責任を感じながら、洗浄・判読・分類の地道な作業がこれからも続きます。


銭と歯ブラシと私


大学会館地点の銭貨




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