整理室日記 | 執筆記事|同志社大学歴史資料館

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デジタルトレーサー

松田 度
同志社大学歴史資料館非常勤嘱託職員
同大学院博士課程後期

最終更新日 2002年12月11日

 数ヶ月前に、愛知県の埋蔵文化財センターにおられる赤塚次郎さんを訪ねました。というのは、赤塚さんが「デジタルトレース」の実践的な研究を進めておられる、ということを知り、その方法と問題点について詳しい話を聞こうと思ったからです。今回は、その「デジタルトレース」の紹介(すすめ)です。

 これまで、たとえば出土品の実測図を公表する場合、インクのペンとトレーシングペーパー(透けて見える製図用の特殊な紙)を使って、きれいに製図し直すという作業が必要でした。インクがにじんでしまったり、インクを引いている途中でくしゃみなどしようものなら、せっかく製図したペーパーはくずかご行きで、もう一度チャレンジ。そんな作業を繰り返して、ひとつのきれいな図を作ってきました。

 もちろん、へたくそでは図になりません。ある程度の技量が必要です。この仕事をする人たちを「トレーサー」(トレースとは、足跡をたどるとかいった意味で、この場合は実測図の線をペーパー越しにインクペンでたどってゆくこと。昔は「墨入れ」ともいいました)とよんでいます。「デジタルトレース」は、その作業をパソコンをつかってやってしまおう、という試みです。従来のトレースと、いったいどんな違いがあるのか。どんなメリットがあるのか。

 まず、使用するもの。「パソコン」、「スキャナー」、アドビ社の「イラストレーター」というソフト、それからワコム社の「ペンタブレット」です。「ペンタブレット」は、実際に画面上にペン書きの要領で作業できる便利なディスプレイです。

 手順としては、「スキャナー」でパソコンに読み込んだ画像を、まず「イラストレーター」で開いて、その画像を動かないよう、レイヤーツールで固定。その後、新しいレイヤーを作ります(うごかない画像の上に透明な紙をかぶせる感じ)。それができたら、ペンを握って、鉛筆ツールを選択して、画像の線をなぞってゆきます。これは、考古学的な知識がなくてもできるし、しかも、トレースの技術も必要ありません。これはもちろん、普通のマウスでもできます。また、パソコン上で修正が簡単にできるので、失敗してごみにする紙もいりません。

 このデジタルトレースは、実際にインクでトレースしたものと比べて、線が単調になりますが、縮尺を変えても線がつぶれず、拡大縮小も自在である、という特徴があります。また、トレースの図はデジタルデータとして半永久的に保存されることも魅力です。おそらく近い将来、こんな「デジタルトレース」が、様々なところで必要とされるのかもしれません。この整理室でも、「デジタルトレーサー」をどんどん育ててゆくつもりです。

(興味のある方は、赤塚さんのホームページ、http://www.wa-jin.com/を参照してください。)


実測図はこれ


トレース後はこんな具合




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