発掘物語6 | 執筆記事|同志社大学歴史資料館

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出土した青白磁

堀井 佳代子
文化史学専攻博士課程前期一回生

最終更新日 2004年6月29日

 平安時代の唐物について

 今回の発掘で、青白磁の破片が発見されました。梅瓶と呼ばれる中国製の壺の一部と考えられます。15世紀末から16世紀の遺構から見つかったものですが、この青白磁自体は宋代(12世紀~13世紀)に製作されたものと考えられます。それが、室町時代の遺構から出てくるということはどういうことなのでしょうか。

 「馬蝗絆」という、ひびを鎹で修理され、その鎹が馬の毛に止まるいなごに似ることから名付けられた碗があります。平安時代後期に南宋の育王山仏照禅師から平重盛に送られた碗で、その後足利義政に伝来し、ひびが入ったので明に送ると、このような優品は無いと鎹でとめて返されたという逸話を持つ碗です。一乗谷朝倉氏遺跡でも同様に鎹で修理された陶磁器が発見されました。このように、宋代に製作された陶磁器を修理して大切に使用していたことが知られます。

 今回発見された青磁の破片も、鎌倉時代頃に輸入されて、大切に使用され、室町時代の遺構から発見されたのでしょう。

 このような中国からの輸入品を珍重する風潮は平安時代にさかのぼります。天長八年(833)・延喜三年(903)には、日本国内に来る外国商人を通して、不当な高値で輸入品を入手しようとすることを禁止する官符が出されています。また、外国商人が大宰府に到着すると、京都の朝廷から唐物使が派遣され、まずは朝廷が必要なものを持ち帰っていました。天皇が唐物を直接眺める、「唐物御覧」と呼ばれる行事も行われています。

 このように唐物は重要視されていましたが、ではその頃の「唐物」と呼ばれる輸入品の内容は具体的にはどのようなものだったのでしょう。平安時代後期に成立した『新猿楽記』には

 唐物には、陣・麝香・衣比・丁子・甘松・薫陸・青木・竜脳・牛頭・鶏舌・白檀<中略>胡粉・豹虎皮・藤茶?・籠子・犀生角・水牛如意・瑪瑙帯・瑠璃壺・綾・錦・羅・穀・呉竹・甘竹・吹玉等なり。

 とあり、多くの香料や貴重品とともに「藤茶碗」―おそらく陶磁器―があげられています。また、『小右記』長和三年(1014)二月十五日条には内裏焼亡の際に唐物が盗まれ、その中に茶碗があったことが見えます。

 しかし、外国からの輸入品として史料に見えるのは、圧倒的に香料や書籍の方が多く見られます。

 今回、近衛殿跡から見つかった青磁の破片も対外交流を示す遺物ですが、それ以上に遺物としては残らないような輸入品も豊富にあったのと考えられます。陶磁器は遺物として残りますが、腐って残らないものもあります。歴史を考える上で、現在残っているものだけではなく残らなかったものも視野にいれて、考えることの重要性を感じました。


出土した宋代の梅瓶の破片


参考文献

  • 森克己 「輸入品とその受容」(『新訂日宋貿易の研究』、国書刊行会、1975年)
  • 皆川正樹「九世紀日本における「唐物」の史的意義」(『専修史学』34、2003年)
  • 国立歴史民族博物館・編『陶磁器の文化史』、歴史民族博物館振興会、1998年




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