発掘物語2 | 執筆記事|同志社大学歴史資料館

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続・坩堝がいっぱい(疑問がいっぱい)

鋤柄 俊夫
同志社大学 歴史資料館 専任講師

最終更新日 2002年6月26日

 ところで、この土坑は鋳造作業の中でどのような役割を果たしていたのでしょうか。同じ場所で、どうして、深い穴を掘って作業をしなければならなかったのでしょうか。そこでは具体的にどのような作業がおこなわれていたのでしょうか。

 土坑が発見された時の状況を整理してみましょう。

 土坑の底は、新たな土を貼り付ける形で何回も修築され、その度にだんだん浅くなっていっています。また修築されたそれぞれの底の上には炭が乗っています。炭の範囲は床面から壁の下の部分でみられます。ただし床面にも炭の上にも焼けた痕跡はありません。壁もそうです。したがって、直接ここで裸の火を焚く作業はしていなかったと思われます。

 それではどうして炭の層があるのでしょうか。

 ところで注意すべき点として、いずれの面でも、土坑の中心軸に乗って礎石のような石がありました。また一番最後に操業していた面には、とくに底の一部で小さな石を敷き詰めていた部分もありました。これらは何を意味するのでしょうか。

 最初は常識的に、礎石のような石が、この土坑の上を覆っていた屋根を支えるためのものかと思っていました。しかし、炭の層の意味を考えていく中で別のイメージをいだきはじめました。

 坩堝を使う作業には坩堝炉というものが要ります。そしてその炉に風を送る鞴も要ります。土坑の中心軸に置かれた石や、床面に敷かれていた石は、こういった設備を設置した施設だったのではないでしょうか。そういった坩堝炉が置かれていて、そのなかに炭が入れられ、火が焚かれていたのであれば、床面に火を受けた痕跡が無くてもかまわないことになります。

 それでは炭の層はなんだったのでしょうか。そして何度も積み重なっている底はなにを意味しているのでしょうか

 ひとつの考え方として、先に述べた坩堝炉が、何回か使っているうちに弱くなって、補修より作り直したほうがよくなった時、中の灰と一緒に壊されて、そのままその上に新しい底が整えられたというのはどうでしょうか。いらない坩堝もその時捨てられ、みんな合わせて新しい底の材料となります。そして底は、この坩堝炉の作り替えの度に厚さを増すことになります。

 ところで、この時に注意しなえればならないポイントがひとつ。底を形成している埋土に、高級な陶磁器も捨てられて入っていることです。当時この地で鋳造作業を行っていた人達は、発掘物語2の2回目で紹介したような茶陶とも、当たり前になじんでいたものと思われます。

 坩堝をたくさん出土した土坑の、細かな分析はまだまだこれからも続きます。


下層。


断面。


調査中。


中層。


上層。


最上層。



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