発掘物語2 | 執筆記事|同志社大学歴史資料館

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発掘調査心得覚書

村上 雅紀
同志社大学 神学部4回生

最終更新日 2002年8月9日

 発掘調査には、広く全体を見渡すマクロな視点と、部分について細かく見るといったミクロな視点がバランスよく両立されることが必要です。

 発掘調査作業の流れを見ていくと、まず始めに、パワーシャベルなどを使いおおむね近代より新しい時代の土を掘削します。次に、柱穴や井戸などの遺構の有無を確認するために移植ゴテや両刃三角鎌などの土を削る道具を用い、人の手によって土を水平に削っていきます。すると、柱穴や井戸・建物跡の痕跡が周囲との土色の違いや土質の違いとしてあらわれます。なぜなら、それらの遺構は作られた際に掘り込まれた土とは違う土によって埋められているからです。

 次に、確認された遺構の位置関係を概念図に記録したり、それらの遺構を写真によって記録した後、その遺構のひとつひとつを掘っていきます。その時も、周囲との土色や土質の違いに従って作業を行っていきますが、実際目の前にあらわれる遺構の状態は複雑で、その遺構の意味を把握するには様々な可能性を考慮に入れる必要があります。

 例えば、他の遺構と比べあまりにいびつな形のものが出てきた場合、複数の遺構が重なり合っている可能性が考えられます。また、遺物の出土状況を見ても、ひとつは様々な種類の遺物が割れた状態で見つかり、もうひとつは同種類のものが大量に重ねられた状態で見つかった場合、前者はごみ穴の可能性が、後者はなんらかの儀式に伴った可能性があります。このように、遺構を確認・掘削するにはひとつひとつの遺構の土色や土質を細かく見るといったミクロな視点と、他の遺構の状態と比較し遺跡全体の中でその遺構を位置づけるというマクロな視点が必要です。

 また、遺跡にはひとつの時代に限らず、複数の時代の生活の痕跡が残されていることが常です。遺跡の時間的な流れを把握し、そこに遺構や遺物を位置づけるには、土の堆積状況を確認する必要があります。そのため、現在まで連綿と堆積している土を土色・土質・遺物の入り方・礫の流れなどの様々な要素を考慮に入れ、時代ごとに分けていきます。この作業を、土のちょっとしたシミや植物の根による撹乱などに惑わされずに行うためには、やはり、土の状態を細かく見るミクロな視点と、その層が遺跡の中でどのような意味をもつか把握するマクロな視点が不可欠です。

 さらに、発掘調査を運営するには調査前から調査終了時点まで常にしっかりとした段取りを整える必要があります。まず、これから調査する遺跡はいつの時代のどのような性格の遺跡であるかを想定するために、調査地点の周囲で過去に行われた調査の成果を確認したり、また、現在に残された絵図や地籍図を用い、可能なかぎりの歴史的・地理的な復元をおこないます。次に、どのような方法によって調査をおこなっていくことがその遺跡の持っている情報を正確に多く引きだせるかを考え、そのためにはどのぐらいの時間と労力がかかり、どのような機材が必要であるかを見通します。同時に、遺跡のどの地点から調査を始め、次にどの地点を調査すれば良い調査ができるのかという見通しも必要となります。このように調査全体の中に個々の作業を位置づけ、把握して調査をおこなっていきます。

 また、調査に関わる人たちの安全管理も調査以上に重要であり、体制としての作業環境の整備と、調査者個人個人の心構えとしての作業環境の整備という二つの視点からの安全管理も必要とされます。

 遺跡に対してマクロ的な見方とミクロ的な見方を同時に駆使すること。これは言い換えると、知的好奇心を旺盛にしてあらゆる分野に目を配り、広い視野でものをみて、しかも詳細な分析をおこなうといったことになりますが、それはそのまま歴史を学ぶための重要な姿勢だと思います。その意味で発掘調査は、まさに実践的な歴史研究であるとも言えるのではないでしょうか。


実践的な歴史研究として。



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