鋤柄 俊夫
同志社大学 歴史資料館 専任講師
最終更新日 2001年9月11日
博物館情報のデジ夕ル化が全国の関係諸機関で精力的にすすめられている。東京国立 博物館をはじめとする全国各地の博物館の様々な貴重な資料が、自宅で好きな時間に閲 覧できるなんて、ほんの少し前までは想像できな かったことである。同様に様々な大学にどれほど多くの貴重な資料が収蔵されているか わかったのも、このデジタル化と高速通信技術の進歩のおかげである。
これらのデジ夕ルアーカイブの利用により、博物館を訪れる前は言うまでもなく、訪 れた後も見てきた様々な資料に思いを巡らせ、見落としたことに気づいたり、逆に新た な関心が生じ、再びその博物館を訪れてみたいと 思う気持ちも生まれる。これまで以上に博物館とその収蔵品に親しむことができるよう になったその効果は著しいものと言える。
しかしこの博物館情報のデジ夕ル化の意義とその可能性は、このようにそれが博物館 資料に接する機会を増やしたことだけではない。歴史系の博物館展示の中で必ずみかけ るのが復原図やその模型である。専門家でないと わからないような難しい個々の資料が、総合化され、わかりやすく説明されており、プ レゼンテーションの方法としてまた研究上も非常に有意義な展示である。
ところがこの復原の展示が、実は専門家にとっては、手間もかかるし、またその内容 においても非常に難しい研究でなのある。とくに考古学の場合、遺跡と遺物と遺構が全 て別の媒体となって記録されており、またそれら は別の場所に保管されていることも多い。復原研究とはそんな物理的にも質的にも分散 されている資料を元位置に戻して考えることなので、非常に有意義ではあるが、実際は 、はかりしれない程の労力と想像力が要求される 研究なのである。
実は、博物館情報のデジ夕ル化のもうひとつの大きな可能性が、ここにある。デジタ ル化された様々な資料は、ヴァーチャルな空間の中で自由に再配置され、それらの関係 は、その資料に関係する様々な研究にしたがって 、はるかに自由にシミュレートすることが可能なのである。これまでの諸研究は、これ によって再検討され、そこからまた新しい視点が生まれる。博物館情報のデジ夕ル化は 、これまで以上に復原研究の、とくに景観復原を 軸とした遺跡の総合研究の可能性を拡大する、きわめて重要な役割をもっているのであ る。
今後、その基盤となるGIS研究の進展が期待される。