発掘物語6 | 執筆記事|同志社大学歴史資料館

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上京探訪

市澤 泰峰
同志社大学 文学部 文化学科 文化史学専攻 4回生

最終更新日 2004年6月19日

 新町キャンパス臨光館地点の発掘調査が始まってもうすぐ2ヶ月が経とうとしています。今回の発掘調査に際し、調査整理室にもいくつかの変化がありました。1つ目の変化は、新学期に入り新しいメンバーが加わったことです。新しいメンバーたちは、最初、各人の個性が非常に強い整理室の雰囲気に戸惑ったようですが、今ではいままでのメンバー以上の個性を発揮し整理室に溶け込んでいます。新たなメンバーが加わり整理室はよりにぎやかになっています。新しいメンバーは、「整理室に来るのが一番の楽しみ」と言ってくれ、古参のメンバーとしてはうれしい限りです。2つ目の変化は整理室が、地下を脱出し、地上に出たということです。今までの旧整理室は臨光館の地下にあり、今回の臨光館の建て替えに際して壊されてしまうため、地上に出てきました。2年間過ごした地下の旧整理室の引越しが終わり空っぽになった姿には郷愁も感じました。新しい整理室は新町キャンパスの一番奥にあります。建物はプレハブですが、今までの地下と比べて格段に明るく、広いため、非常に清々しい気分で仕事をしています。遺物を洗うための蛇口も増え、清々しい気分ともあいまって、全体の仕事もスムーズに進んでいます。

 そんな新整理室では、臨光館地点の発掘調査と並行して、図録の作成が進んでいます。その名を「上京考古学探訪」と言います。この図録は、同志社大学のある上京という地域に着目することから始まりました。そして、2002年から歴史資料館が行っている調査を中心として、同志社大学のキャンパス内での発掘調査の成果を広く一般の方々にも知ってもらうとともに、その成果が上京という地域の中でどのような意味を持っているのかを示すことを目指し作成しています。今回の一連の調査では、いままでの上京のイメージを変えるような発見もありました。それらの発見がどのような意味を持ってくるのか、あらためて考える上京とはどんな空間であったのか、そしてそれをどのようにしてみなさまに伝えるか、私たちの苦心が感じていただけると思います。
 いままで私たちは、基本的に、研究者や専門家を相手として発掘調査の報告書を作ってきました。その場合、文や図というのは非常に専門的なものばかりになっていきます。しかし、この図録は研究者や専門家にのみ向けたものではなく、広く地域の方々にこそ見てもらいたいものであります。専門ではない方々に地域の歴史をより分かりやすく知ってもらったり、興味を持ってもらったりするために作成するということは非常に難しいことであることを痛感しています。
 私は、今回の一連の発掘調査や寒梅館の展示などの歴史資料館の活動に関わってくる中で、これからの文化財の保護・活用というものは、いままでのような研究者や専門家といった狭い中での文化財の保護・活用ではなく、地域の方々に興味を持ってもらい、そういった地域の中に文化財が受け入れられ、広く地域の中で活用されていくことが、これからの文化財の保護・活用といった面で一番重要になってくるのではないかということに気づかされました。特に文化財というものは、文化財そのものだけが意味を持つのではなく、なぜその場にその文化財が存在しているのかということも非常に重要な意味を持っています。この図録には、新しい形の文化財の保護・活用というものがなされるようになり、歴史という文化が、現在の中で地域の中に受け入れられ、より豊かな文化を形作るためのきっかけとなってほしいという願いもこめられています。

 編集は最終段階に入っています。よりはやく皆様のお手元にお届けできますよう整理室一同忙しく駆け回りたいと思います。


図録の編集作業風景





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